この窓の向こう側

小説•エッセイ集

2017-01-01から1年間の記事一覧

コスモス #01

秋が始まった事を感じるためには、家から30分ほど歩き、川沿いをしばらく散歩し、足元に目をこらす。なんとも体力と精神力がいるものだと、この街に住みなれた僕は、抗いようのない午後をそれでも満喫していた。 そんな僕の目に飛び込んで来た一輪の花を指差…

山へ

背中の重さはその時間と反比例し。 詰めれば詰めるだけ、未来は明るく。 この瞬間が一番楽しいのかもしれない。 衣食住を背に、行ったことのない道を進む。 日頃のしがらみは雲の下、携帯電話もスマートフォンも捨てて、 万点の星空の下。 明日から尾瀬に。 …

広島にいる正義の味方

いつからだろう。 あのお気に入りの帽子を人前でかぶれなくなってしまったのは。 子供が縁日で無駄遣いするような感覚のあの帽子。 一時、僕のアイデンティティとなったあの帽子。 隣の人と仲良くなれる、魔法の帽子。 憧れの筑紫さんが好きだと言った、あの…

ネコのこと(2)

彼女は今、僕の傍にいる。 薄暗い部屋の中では隠そうにも隠しきれない眼光を闇に泳がせて。 さて、もう寝るよ。 そしてまどろみの中、虚ろな瞳をどこか遠い未来を見透かすように漂わせていた。

ネコのこと(1)

彼女のその、しなやかな肩は春の陽ざしを受けて、四肢の影と逆光のざわめきを私の脳裏に焼き付けた。そんな僕の印象をよそに、彼女は飽きることなく窓の外を眺めている。 その視線の先に何が見えてるのか私は知らない。窓の淵に切り取られ、行く当てもなくし…