この窓の向こう側

小説•エッセイ集

ネコのこと(1)

彼女のその、しなやかな肩は春の陽ざしを受けて、四肢の影と逆光のざわめきを私の脳裏に焼き付けた。そんな僕の印象をよそに、彼女は飽きることなく窓の外を眺めている。

その視線の先に何が見えてるのか私は知らない。窓の淵に切り取られ、行く当てもなくした澄んだ空か、それとも、文明か幻か自然現象なのか判断のつきそうにない飛行機雲か、はたまた目の前でせわしなく動き回る、儚く、生命力に満ち、菜の花に吸い寄せらた小さな命を見つめているのか。
私は、やはり彼女の小さな影とそのしなやかな肩からは伺い知る事はできないでいた。
彼女は時折、ため息をついたり、肩越しに私を見つめたり、その目の前の窓の内側と外側を行ったり来たりして楽しんでいる。声をかけると窓の外へ。そっと見惚れていると窓の内側へ。そうして長い間言葉も交わさず、意識を探るようにお互いの事を思っているうちに、午前中が過ぎてしまう事もあった。